里山学覚書

森林科の学生のつぶやき

今夜も歩荷

夜10時ごろ、誰もいないサークル棟の階段に、足音がこだまする。

今日の負荷は30kgちょっと。背負ったザックの重さに足が悲鳴をあげている。

全身から湧き出る汗はTシャツをすぐにビショビショに濡らし、コンクリートの床には段々と汗のシミが増えていく。

 

「歩荷」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

 

歩荷とは、ザックや背負子で荷物を背負い、歩いて運ぶことである。

まるで荷物に足が生えて歩いているように見えることから「歩荷」と呼ばれる。

山小屋の食材・資材はこびのために行われることが多いが、大学ワンダーフォーゲル部では専らトレーニングの一環として行われる。

僕の所属するワンダーフォーゲル部はユルい部活なので、歩荷といっても20kgちょっとで階段を20分間上り下りするだけだが、それでも今までの僕にとってはそこそこキツかったし他の大学もこんな感じでやっているのだろうと思い込んでいた。

 

しかし僕はある日たまたま、関東のガチ勢ワンダーフォーゲル部の実態を知ることとなった。

 

先日、夏合宿の内容が八ヶ岳の縦走に決まり、「このままでは体力が全然足りない」と危機感を持った僕は、やる気のある後輩を誘って大学近くの山で歩荷をすることにした。

ザックには寝袋と2Lペットボトルを9本、行動食などを入れ、総重量は約20kgになった。

この荷物を背負って大学から道路をトボトボと5kmほど歩いて、登山口に着いた。この頃にはだいぶクタクタになっており、登山道に入ってからすごくしんどかった。稜線まで出てちょっと歩くと山小屋がある。そこでみんなで棒ラーメンを食べた。お昼を食べると急に元気が出てきて、帰りは少しの余裕を持って帰宅した。

 

その時の写真をインスタに投稿すると、東京の大学に行った1つ上の幼馴染Tから久しぶりにメッセージが届いた。そこで僕は大変なショックを受けることとなった。その時の会話を書いてみる。

 

T「俺も丹沢の鍋割山で歩荷やってる」

僕「みんな何キロくらい背負ってる?」

T「30kgから採用でアベは50kgくらい」

T「現役で100背負う人もいる」

僕「想像超えてたわ」

T「64背負って学生最強だったんだけど、最近抜かれちゃったから今の学生最強は67」

T「意外と気合でなんとかなるよ」

僕「そうなのか、、俺もちょっと増やしてみるよ」

T「毎週歩荷して、5kgずつしていくと結構伸びやすい」

T「ある週で限界が来る」

 

 

なんだって⁉︎ ちょっとよくわからないなあ。

最低30??アベ50??

67で学生最強???

気合でなんとかなる??

 

どうやら関東のガチ勢ワンダーフォーゲル部は50kgを平気で担ぐらしい。

本当にびっくりした。それとともに、ちょっとした対抗心が生まれてくるのを感じた。

Tは幼稚園の時から知っているが、別に体格の良い方ではないし、体重も多分60kg以下だろう。背も高くはないし、一体これはどうなってるんだと。体格はほぼ同じのあいつにできて俺にできないはずがない!という単純な思い込みで、歩荷に本格的に取り組むことに決めたのだった。

 

それから僕はほぼ毎日階段で歩荷をした。夜なってから誰もいなくなったサークル棟で誰にも言わず、独りで。

 

その次の週末には25kgで歩荷登山をしたが、この時、急登でものすごく苦しむことになった。平地ではへっちゃらなのに上りに入ると一歩一歩がすごくキツくなる。階段登降の比じゃない。坂が永遠に続くかのように感じた。

だけどこんなところで諦めるわけにはいかない。他の大学ではこの倍背負って登ってるんだと自分に言い聞かせ、なんとか山頂まで往復してヘットヘトになって部室に戻った。

一体、こんなんでいつ50kg背負えるようになるのだろうかと、自分の弱さに辟易した。

 

翌日から階段登降の負荷を30kgに増やした。大汗をながし少し息をあげながらではあるが、いつも通りの20往復ができることがわかった。

あと、運動してもタンパク質を摂取しなければ筋肉にならないと思って、歩荷後にザバスを飲むことにした。

きついトレーニングをした後に飲むザバスは美味しい。歩荷は嫌いじゃないと思った。

 

次の週末には歓迎登山が開催された。みんな軽装で来る中置いてかれるのは嫌だったので15kg程度で登ったが、これは余裕だった。10kgできつそうにしている一年生がかわいかった。

 

その後も何人かの一年生に声をかけ、練習登山を計画している。明日も来週末も、近くの山で歩荷をするつもりだ。

 

当面の目標は、7月中に40kgで階段登降、30kgで歩荷登山。

他にも筋トレやランニング、登山に関わる知識の勉強など頑張っていこうと思う。