いつからだろうか、宝物と言えるものがなくなってしまったのは。
子供の頃、親にもらったものや、自分で作ったものを「宝物」と呼んで、大切に宝箱にしまっていた。
実際は、その中に入っていたのは、機関車のキーホルダーやコマのバトルで手に入れた小さなタイル(メダルのように扱われていた)など、大したものではなかった。おばあちゃんからもらったビールの王冠も大事にとっておいた。
あの頃の僕の世界は小さくて、でもキラキラしたもので溢れていた。 親はそんなに色々買ってくれる方ではなかったし、もらったもの一つひとつが宝物だった。
今、僕はバイトや奨学金によって、親からの仕送りがなくても生活でき、さらに少し貯金ができる程度の生活を送っている。
浪費するわけではないから、貯金はそれなりに溜まって、欲しいものは簡単に買えるようになった。 クレジットカードも持ったし、ネットショッピングじゃボタンひとつで欲しいものが手に入る。
自立した生活や、自分で稼いだお金でものを買うということは、自分が望んだことだし、望ましいことのはずだ。
それなのに今は、この余裕のある生活こそが、何かを手に入れることの喜びを半減させてしまっているように思えるのだ。
全てのものが、大切なようでもあるし、別になくなっても構わないとも思える。
今の僕にとって、宝物と言えるものがあるのだろうか。